「私の武器ってなんでバールとか釘バットみたいな物騒なのしか出ないの?
もっとさ、RPGっぽい魔法を使いたいんだけど……」

いい加減腕が疲れた。明日はカクジツに筋肉痛だ。
そんな私の辛い思いになど興味が無いというように、インコモドキはハハハと笑う。

「何回も言った通り、君の魔法の性質は殴打。ぶんなぐる、ぶっとばす。
そんな物騒なことをあの時考えていたのは僕の知る限り君が初めてだよ……まったく。
ちなみに、魔法の上書きは時間も金もかかるからオススメはしないよ?」

「また金か……あんなに憧れていた魔法なのに、夢が無い!
私今日は悪人潰すのやめる。可愛くもないインコモドキのノルマ達成なんて知るか! 死ねー、インコドモキ!」

魔法陣からバットを出してインコモドキをぶっ飛ばす。カキーン。
ただ、いつも通りに手ごたえは無い。チッ。幻影か、便利な魔法だ、羨ましい。
周囲の確認。……右よし、左よし、上、下、よし。インコドモキは居なくなった!
インコモドキをぶっ飛ばして散歩中。なんかアイス食べてるカップルっぽい二人組発見。
やっぱり、そういうのを見るとちょっとだけ羨ましいなとか思ったりする。自分で言うのもあれだけど、そういう年頃だし?
……女の人と目があった。男の人に知り合いですかとか聞いてるし。ごめんなさい、違います……。

「あっ、このアイスならー、あっちですよー!」

「は、はい、どうもっ」

……ってつい言っちゃったけど。ま、いっか。なんかごめんなさい、と心の中で謝っておく。
一応指された方を向いて、なんとなく歩く。

「不思議だね、あの人たち。少しだけ魔法の匂いがする」

「うわっ!? び、びっくりしたー、オイ、インコモドキ。どっから湧いたんだ」

「湧いたわけないだろ……さっきから君のパーカーのフードの中にいたよ。気付かなかった?」

「気付かなかった……。そうだ、幻影か分身の魔法教えて。いざって時に一体ずつ殴るの辛いから。 どうせ殴らないといけないならちょっとでも楽して殴りたいし」

「敵の攻撃対象を君1人から2人にしたいなら、他の魔法少女と手を組んだら?
ちなみにさっきの人たちは、違うから諦めて」

何が違うんだよ、魔法の匂いとか言ってたじゃん。
そりゃ髪の色とか格好とか、私たちとはなんか違ったけど……。そういうファッションでも流行ってるのかな……。 「前にも言ったけど、この町には今、君を含めて2人の魔法少女がいる。
男の魔法使いはいないみたいだね。……条件が特殊だから仕方ないか」

「ナントカ歳まで童貞だったらってやつ?」

「それ、有り得ないから」

以前そんな噂で盛り上がってた気がするけど、違うんだ……。
未だに信じてる人達がかわいそう! いたとしてもそんなオッサンと組むのは嫌だけど。

「あ……後ろ」

「後ろ?」

振り返ると、当たり前だけど見たことのない女の子が立っていた。私と同い年……かな?
インコモドキが魔法少女だとかささやいてきた。まじっすか。でも、私みたいな物理攻撃オンリーではないんだろうな……。

「はじめまして、2人目の魔法少女さん。この子が近くに魔法少女がいる、なんて言うからびっくりして」

その人の胸元から黄色いインコが出てきた。うちの青いのより断然可愛い。
でもなんで胸元から出てくるんだよ、変態か、このインコ。

「私は柚希。色んな魔法が使えるよ、よろしくね。この子は、キキ。イエローハルクインなセキセイインコだよ」

「ええっと、私は千紗。色んな魔法って、やっぱりお金払ったの? お金持ちなんだね……」

「ううん、最初から、色んな魔法陣を作れたからね。お金は最初のと月末のしか払ってないよ」

やばいな、この柚希という私と同年代っぽい人は、最強の魔法少女かも。ちょっと悔しい。
おいインコモドキなんとかしろ、と思ったがインコモドキは何度も言わせるなという顔をしやがった。なんとかしろよ。
キキと言うらしいインコはあくびをしてからまた柚希の胸の中に入る。くそう、可愛いけど変態なインコめ。
お前も、うちのインコモドキと一緒に殴り飛ばしてやろうか!! 可愛いからって、私は容赦しないぜ!

「使える魔法はそうだなぁ、なんでもできちゃうんだけど、例えば……キキを殴り飛ばそうとする千紗ちゃんを動けなくしたり……」

「うひゃあっ!? ごめんっ、魔法陣出さないでっ! なっ、なんでそんないっぱい出るの!? なんでめっちゃデカイの!?」

「扱える魔法がたくさんあるってことは、それだけ多くの魔法陣を生成できるって事……みたいだよ。
魔法陣の大きさは、海との同期のレベルの高さに比例する。……って、キキが言ってた。
ねぇ、千紗ちゃん? キキは私の可愛いインコちゃんだから、傷つけようなんて思わないでね」

なんか意味不明なこと言われてる……けど、柚希を怒らせたらダメなのはよっく分かった。すいません、すいません。

「思わない! 思いません! 魔法陣消して!」
柚希はくすくすと笑って、魔法陣を全部消してくれた。あー、怖かった……。やっぱり最強だよ。

「ありがと……ごめんね、柚希。あの、インコが胸にはいるのってくすぐったくない?」

「千紗ちゃんも胸にチタン板いれてるけど、冷たくないの? 重くないの?」

絶句。
12/17 れいむ
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