にぎやかな街並みに目をやり、風真はふぅと一息つく。活気がある町は好きだ。ふと目に入った店にあった色鮮やかな髪飾りを手に取る。店の主人に勧められ、風真は苦笑いを浮かべ元の場所に戻した。
「時雨!! 見て!! 人がたくさんいるわ!!」
 楽しげな少女の声が聞こえ、風真はその方へ目をやった。何かやっているのか人だかりができている。
「おっ、何や。なんかやっとんの」
「ロー! 勝手にどっか行ったらあかんやろ!」
「何勝手に行動してんねん」
 風真が目をやったことで気が付いたのか、ロートも面白がって人だかりに近づいていく。それを止めるようにリラやシュヴァルツも追いかけていく。
「ねぇ! 何やってるんだろ? ホアン、見に行こ!」
「嫌ですよ、興味ないですし」
 ベルデがきゃあきゃあと騒いでいる声も聞こえる。ホアンはいやいやながらも、大人しくベルデについて行っているようだった。
 風真は騒ぎの方へ近づいた。


 町の中心ではサーカスがショーをしているようだった。さほど大きいサーカス団ではないが、色とりどりの衣装を着たサーカス団員やピエロたちが楽しげに踊っている。
「……サーカスは初めてか?」
 いつの間にか、風真の隣にはアズルが立っていた。高身長のおかげか、さほど苦労せず見えるらしい。
「一度だけ、子どもの頃に見た記憶があるよ」
「ほう」
 何かを思い出すように風真は目を細める。記憶もおぼろげなほど遠い昔を必死にかき集める。父と母と手をつなぎ、兄とはしゃいでいた小さな自分を思い出した。
「よく覚えてないけど、楽しかった」
「そうか」
 それ以降、2人は何も口に出さなかった。
「手品すごかったね!」
「あ、あれくらい僕にだってできますよ!」
「バニーガールエロかったわ……リラ! 俺のためにあの恰好してくれ!」
「アホなこと言いなっ!」
「……」
「シュヴァも見たいやろ?」
「あ、アホか!」
 サーカスも終わり、それぞれが思い思いに感想を言い合う。風真は少し離れたところから5人を見ていた。
「入らなくていいのか」
 ふとアズルが風真に声をかける。風真はゆっくりと首を横に振った。
「いいよ。僕、あんなにはしゃいで見てなかったし」
 風真の言葉にアズルは小さく苦笑した。そして、風真の頭をぽんぽんと優しく撫でた。風真は少し気まずくなり、そっとアズルから目をそらした。
「あ、風真にアズル。さっき、そこにおいしそうなアイス屋さんが……ってどうしたの? 何かあったの?」
 アイスを片手にアランが戻ってきた。どうやら、一人別行動をしてアイスを食べに行っていたらしい。確かにその手には、2段重ねになったアイスが握られている。
「……そういえば、サーカスの時」
「アランのやつ、いなかったな」


11/27 神奈
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